【速報】シリア和平協議 敵対行為停止を合意も実効性については疑問視も
ドイツ・ミュンヘンで開催されたシリア和平協議で、シリア紛争当事者間での停戦が合意されました。シリア政府と敵対勢力、および関係諸国で1週間以内に停戦にこぎつけるという内容です。シリア全土で人道支援を迅速に行うことも決定しました。
会議での決定内容は以下のとおり。
1週間以内にシリアでの戦闘を停止する。数日以内に国連のタスクフォースを立ち上げ、戦闘停止の方法の検討に入る。また、攻撃を受けている地域に対して、近日中に人道支援を開始。金曜日にジュネーブで開かれる会議で作業グループが方法を検討する。なお、攻撃停止の対象から「イスラム国」とヌスラ戦線は外されるとし、ロシアは空爆を続行する。
合意の軸は「戦闘行為の停止」と「人道支援」の2つ。
しかし、その実効性は早くも疑問視されています。
ロシアの空爆は継続
シリア和平会議の中断の原因ともなったロシアの空爆は、「戦闘行為の停止」後も継続します。ロシアは「イスラム国」とヌスラ戦線は停戦の対象にはならないとし、両者への空爆は停止する必要がないという立場です。
一応、ロシア空爆の大義名分は「イスラム国」などの国際的なテロ集団の撲滅にあります。
しかし、空爆はアサド政権を支援する側面が強く、穏健なイスラム勢力へも容赦ない空爆が行われていると報告されています。一般の市民も犠牲になっています。
そのため、ロシアが空爆停止を明言しなければ、シリアの反政府勢力が停戦合意に従わないことも考えられます。そうなると、米ロ主導で実施される停戦枠組みが機能しない=停戦が実行に移されない可能性も出てきます。
そもそも、誰がこの枠組に参加するのか?
会議の決定事項を実行に移すため、米ロ主導で作業グループとタスクフォースを立ち上げることになっています。
「イスラム国」とヌスラ戦線はこの枠組から排除されることが決まっていますが、ほかにどの勢力を含めるかについて米ロ間でも認識に違いがあると言われています。さらに、ロシア・シリア・イランは、トルコやサウジが支援する組織を加えることに反対しています。
さらに、詳細については、シリア国内の様々な勢力の合意を取り付けることが必要になりますが、その行方も不透明。
タスクフォースや作業グループは、開始前から前途多難なわけです。
「敵対行為の停止」は紙上の約束
ケリー国務長官は「敵対行為の停止」が紙の上での合意にすぎないことを認めています。つまり、現段階ではなんら拘束力を持つものではありません。ラブロフロシア外相も言うように、シリア紛争のすべての当事者がこの合意を信任するかどうかがポイントになってきます。
日本のメディアでは「停戦」という表現が使われていますが、今回の合意の内容はあくまで「敵対行為の停止cessation of hostilities」。「停戦ceasefire」の前段階という位置づけです。
この2つの違いについてMichael Safi氏がガーディアンで言及しています。
今回の会議で提言された「敵対行為の停止」とは、暴力の一時的な中断を意味し、戦場での互いの立場を凍結するというもの。和平プロセスの最初のステップではあるが、拘束力はない。
他方、「停戦」とは長期的な和平プロセスや交渉による解決の一部として宣言されるもので、国連監視団の展開、非武装地帯の設定、前線での武装勢力展開の禁止などが含まれる。
今回の「敵対行為の停止」は、シリア和平にとっては必要なプロセスだけれども、拘束力がないところがポイント。実行に移せるかどうかは、関係当事者が米ロ主導の枠組みを信任するかどうかに依存するというわけです。
こうしている間にも、シリア政府側の攻撃により、アレッポ周辺の人々の生活環境は劇的に悪化しています。
人道支援が喫緊の課題になっていますが、支援機関が彼らのもとにアクセスできない状態が続いていて、改善の兆しは見えません。この状況を一刻も早く改善するための枠組みが最も求められています。