シリア難民危機を考えるブログ

シリア難民に関する情報を集約していきます。難民問題と切り離せないシリアや中東情勢についても検証します。

シリア難民人道支援に1兆2800億円を拠出する国家首脳の思惑とは?

ジュネーブで反体制派によるシリア和平協議が中断を余儀なくされたその日。ロンドンでは約70の国と、国際機関、NGOなどによるシリア支援のための会合が開かれました。

会議では各国が難民人道支援のため110億ドル(1兆2800億円)の拠出を表明。難民政策をめぐってヨーロッパ各政府が批判にさらされているなか、今回の会議の決定や発言を見ると、難民流入に歯止めをかけたいヨーロッパ首脳の思惑がうかがえます。

Prime Minister Ahmet Davutoglu of Turkey and Sheikh Sabah Al-Khalid Al-Sabah, First Deputy Prime Minister of Kuwaitwww.flickr.com

110億ドルの支援

イギリスのキャメロン首相は、人道支援目的で1日で表明された金額としては過去最大と語り、その成果を高らかに誇っています。本年中にまずは60億ドルを、そして2017年から2020年にかけて50億ドルを支援する内容になっています。(しかし、それでも2016年に必要とされる援助額85億ドルには遠く及ばないとのことですが)

日本経済新聞によれば、支援の方向性としては3つ。

  • 雇用・職業訓練
  • 教育
  • インフラ

資金は主に(1)400万人以上の難民への職業訓練など自立支援(2)16年度末までに約140万人の難民の子供への教育機会の提供(3)治安対策や医療体制などシリア国内のインフラ整備――にあてる。

シリア支援へ1兆円 日米欧など70カ国、共同拠出合意めざす :日本経済新聞

ですが、このブログでは「雇用」「教育」「食糧支援」という3つのポイントから会議の意味を探ってみましょう。

雇用・職業訓練

難民がヨーロッパに流入する原因として、トルコやヨルダンなど周辺国に逃れたシリア人の生活が急速に悪化しているということがあります。戦禍を逃れて周辺国にきたけれど生活が苦しい。

周辺国に避難する人の多くは、実は難民キャンプではなく、家を借りて生活をしているという実態があります。生活費を稼ぐために長時間労働を強いられ、子どもたちも児童労働に従事させられていることが報告されています。

トルコなどでは原則としてシリア人の就労は禁止されているため、労働条件が悪くても文句を言えずに状況を受け入れるしかありません。一日中働いているのに、住む場所にも食べ物にも事欠くような生活です。

しかし、ヨーロッパで難民として認められれば、語学の習得や就労支援を受けられる。それが、ヨーロッパへと向かう誘因の一つとなっているわけです。

今回のシリア支援会議では、雇用条件の改善に向けた支援が表明されました。巨額の資金提供の見返りに、周辺国に雇用創出を働きかけています。シリア人を就労させることで、難民を中東に留めたいとする政治的な狙いがあるとも言われています。

しかし、ヨルダンやレバノンでは、失業状態にある国民からの反発も予想されますから、期待通りに雇用が生まれるかは不透明です。 

子供の教育支援

難民をめぐっては、子どもの生活環境の悪化が言われるようになりました。特にここ数か月、ヨーロッパに流入する女性や子どもの割合が増加傾向にあります。トルコから極寒のエーゲ海を渡るという大きなリスクを背負って。

そうした難民の子どもたちの就学機会が奪われています

これは別の機会でも紹介しましたので、詳細は割愛します。

こちらの記事はデータが少し古いです。しかし、当時より数字が改善している兆候はありません。良くて現状維持、普通に考えて悪化しているのではないかと思われます。

多くの子供たちが教育を受けていない。

シリアが将来的に復興を遂げた時、教育を受けていない世代が生まれることが危惧されます。

また現在、その子どもたちが過激主義者の勧誘のターゲットとされることも懸念されていて、国際社会の支援を要するもっとも重要な問題とも考えられています。

キャメロン首相はシリア人の教育支援は、単に人道的な問題ではなく、安全保障上の問題でもあると公言しています。EUからの脱退論まで出ているイギリスの情勢を考えると、安全保障面の成果を公言しなければ資金援助を正当化できない状況にあるのかもしれません。

食糧支援

難民キャンプでの生活が悪化するきっかけとなったのが、昨年夏以降の「食糧危機」です。

食糧危機といっても、自然災害や異常気象が原因ではないんですね。国際社会による資金提供が滞り、WFPが食糧支援を大幅に削減したことが理由でした。つまり「人災」であったわけです。

だったら食糧支援を行って、難民に中東にとどまってもらおうと考えたのがドイツ。この会議でドイツは12億ユーロの支援を約束しました。それだけのお金があれば、食糧支援に必要な金額の半分をまかなえるとしています。

しかし、難民の食糧支援だけが原因なのか?と疑問の声も上がっています。

支持率が急落しているメルケル首相は会議で、2015年末の食糧不足が難民を増加させたと説明した。しかし、ギリシャの関係筋によれば、ギリシャを通過してドイツに向かう女性と子どもの難民が現在急増している。家族の呼び寄せを阻止しようとするドイツの新たな規制を恐れているためだという。

Governments pledge $10bn for Syria in largest one-day humanitarian drive ever | World news | The Guardian

つまり、ドイツの難民政策の先行きが不透明だから難民が押し寄せるのだと言ってるわけです。

食糧問題も難民抑制には欠かせないけど、それだけじゃないよね、ということです。

ギリシャとマケドニア国境には、多くの難民が滞留し国際問題に発展しています。現場の担当者からすれば、見当違いも甚だしいということでしょうか。

メルケル首相は難民政策をめぐって支持率が急落。自らの政策の一貫性のなさが混乱を招いているわけですが、そうした批判を食糧支援によって交わそうとしているようにも映ります。 

パトリック・キングスレー氏による4つの提案

さて、会議でのこうした取り組みに対して、パトリック・キングスレーという人が、それだけじゃダメでしょ、ということを言っています。

Increasing aid for Syrian refugees is not the only option. Here are four more | World news | The Guardian

記事の中で難民問題の解決に向けた4つの追加提案を行っています。興味深かったので、ざっくり要約をしてみました。

1.受け入れ枠を増やす

どうせ何をしても難民はやってくるのだから、定住する機会をあげると公言してしまったほうが良い。そうすることで、少なくとも難民流入をコントロールすることはできる。それによって、密航業者を頼って危険を犯してヨーロッパに渡ろうとする意欲をそがれる。

カナダ政府が2万5000人のシリア人受け入れを表明したとき、ヨルダンでは国内に留まるとした人が増えたという。安全な方法があれば、家族をわざわざ危険にさらすようなことはしないだろう。

2.ヨーロッパ共通の難民政策の施行

国により難民制度や政策が違うので、特定の国にしわ寄せがいってる現実がある。ドイツの負担を軽減するためには、避難民のための共通のプロセスを打ち立てる必要がある。そうすることで、難民が受ける扱い、利益、定住の機会を平等にすることができる。

3. アフガニスタンやイラクからの難民のニーズも考慮する

ヨーロッパにやってくる半分がシリア難民だとしても、そのもう半分はアフガニスタンやイラクからの難民だ。彼らの要求を考慮することも欠かせない。

資金援助や労働支援プログラムは、シリア人だけでなく、アフガニスタン人やイラク人も対象とする必要がある。 

4. 湾岸諸国や米国にも一定の役割を果たしてもらうよう促す

サウジアラビアやUAEはシリア内戦に深く関わっているにもかかわらず、難民の受け入れには消極的だ。資金的な協力だけでなく、周辺のアラブ諸国の負担を減らすために多くのシリア人を受け入れるべきだ。

パリやサンバーナーディーノでの事件の後、米国の政治家は難民に対して厳しい姿勢をとっている。実際、米国が難民受け入れを表明する可能性は低い。しかし、3億人の人口を抱える大国が貢献をする姿勢を見せれば、定住プログラムの成功にとって決定的な影響を与えるだろう。

 

それにしても、難民問題の根本的な解決とは何でしょうか?そもそも根本解決などということがありうるのでしょうか?

みなさんはどのように考えますか?