シリア難民危機を考えるブログ

シリア難民に関する情報を集約していきます。難民問題と切り離せないシリアや中東情勢についても検証します。

欧州委員会が「欧州国境警備隊」を提案。フランスとドイツ主導の提案にギリシャ、イタリア、東欧諸国が反発も

12月17日から2日間の日程で、ブリュッセルでEU首脳会議が開かれます。難民問題が主要な議題となりますが、それに先立ち欧州委員会が「欧州国境警備隊」の創設を提案しました。

現在は欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス)という機関がありますが、今回提案された「欧州国境警備隊」は、フロンテックスの役割を更に拡大させたものです。

緊急時に加盟国の同意なしに介入ができるという提案にイタリア・ギリシア・東欧諸国が反発

先日、ドイツでは流入した難民数が2015年で100万人を超えました。2016年以降も大量の難民が押し寄せることが予測されており、テロ対応に苦慮しているフランスとともに、創設を主導する立場にあります。 

国境警備隊は、フロンテックスと異なり、緊急時には加盟国の同意なしに介入できる権限をもたせているのが特徴です。

しかし、当事国から見ればこれは、自分の領土内・領海内に外国の警備隊が勝手に活動しているようなもの。

特に、ここ数年でEU域内での発言権を増してきたドイツに対しては、近隣諸国は警戒を怠りません。その膨大な経済力、軍事力、発言力は、周囲の中小諸国からすれば脅威となるわけです。

そのため、言ってみれば「自宅の庭」で、ドイツが主導した国境警備隊にうろうろしてほしくないというのが本音です。EU首脳会議での議題には、EUが各国の国境管理体制を監視することも含まれています。体制に不備があれば、EUは当該国に対して期限付きで改善を要求されるという圧力もかかってくるわけです。

そもそも、ドイツとフランスは、ギリシャやイタリアにおける大量の難民手続きの遅さや対応について不満を持っています。EU域内での人の往来の自由を尊重し、入国審査を不要とするシェンゲン協定。両国は、難民の流入問題で苦境に立たされており、そもそもEUへの流入をコントロールしたい。そのためには、シェンゲン国と非シェンゲン国との外部国境を集権管理したいという意識が強いわけです。

その外部国境に接するのはギリシャとイタリアです。国境警備隊の設立は、まさにギリシャとイタリアを狙い撃ちしたものだという議論も出始めています。

そもそも、ドイツとフランスに対しては、両国が国境警備隊の監視対象にならないため不公平感が漂っています。ドイツとフランスは、シェンゲン国に囲まれているので、国境警備隊がメルケル首相やオランド大統領の許可なしに、両国で活動するということにはなりません。フランスとドイツはあくまで監視をする立場で、外部の監視が入るわけではない。そんな意味でも、EUの小国にとっては、国境警備隊の創設とその権限の強化は、ドイツとフランスからの押し付けと感じても不思議ではありません。

国境警備隊の創立は、EU加盟国から批判にさらされることが予想されます。しかし、国境警備隊による監視強化が、むしろ統合ヨーロッパの理念の強化に繋がるという見解もあります。外部国境を強化しなければ、シェンゲンエリア内部の境界の取り締まりをきつくせざるを得なくなり、事実上シェンゲン協定が終わりを迎えるとして、国境警備隊の創設を支持する声も上がっています。

このように波乱要素を含んでいる国境警備隊設立案。17日から始まるEU首脳会談でギリシャ・イタリアがどう反応を示すかに注目です。