大量の難民流入がEUの経済成長を加速するー欧州委員会
国連の統計によると、2015年にヨーロッパに流入した難民は75万人を超え、2015年10月だけで218,000人が新たに流入しました。その多くはシリアやアフガニスタンからの難民で、欧州委員会は2017年までにその数は300人を超えるとの予測を発表しました。
難民の急増に伴う社会的な影響や不安から、ドイツでは受け入れに積極的なメルケル首相に対する支持率の低下、一部地域で難民施設への襲撃などの問題が表面化しています。
最低気温が氷点下になることも多いヨーロッパの冬を前にして、難民流入のペースがさらに加速する中、欧州委員会は秋季経済予測の中で難民流入の経済的影響を発表。
域内のGDPを0.2％〜0.5％押し上げる効果があるとの見通しを発表しました。
「難民らの欧州諸国への殺到は加盟国らの財政に重荷となっている。急増を受け、救出、国境管理、収容施設の確保、保健衛生や他のサービス提供などへの支出を強いられている。 ＥＵの報告書はこれらの追加支出がより高い成長率に即座につながるとの見解を示唆。難民や移民らの殺到は成長率を約０．２％押し上げる効果を持つとも分析した」（CNN 「難民流入、ＥＵ経済を０．２％押し上げ 欧州委が見通し」参考CNN Money）
しかし、成長の度合いは、難民がもつ技能や職能に依存すると見ています。
受け入れた難民が、受け入れ国の国民と同じレベルの技能や職能を持っていると仮定した場合、EU域内総生産（GDP）は2016年0.21％、2017年0.26％押し上げる効果があると推測。
しかし、難民が低い水準の技能や職能しか持たない場合は2016年で0.14％、2017年で0.18％の押し上げにとどまるとしています。
また、年間4000人という限定的な貢献にとどまるイギリスに関しては、経済成長の恩恵は受けられず、いわゆる「通過国」であるハンガリーやスロベニアなどの中東欧諸国も国の支出の増加の影響で成長はわずかだろうとしています。一方、多くの難民を受け入れるドイツやスウェーデンには大きな経済効果があると見込んでいます。
各国政府の財政コストは限定的なもので、「難民流入に伴うＥＵ加盟国の財政悪化は少ないとされている。ＥＵ全体の財政赤字は１６、１７両年でそれぞれ域内ＧＤＰの０．０４％しか増えない。一方で、１９年と２０年にはそれぞれ０．０３％と０．０５％の改善になると推計している」。そして、長期的には移民の貢献によって負担費用が減少するという見通しを立てています。
その一方で、技能が向上した難民・移民が労働市場に加わり、経済活動に参加するに伴って、雇用が拡大するものの、短期的には低賃金労働者が彼らとの競争により職を失う可能性もあるとの指摘もなされています。
失業率の高い旧東ドイツ地域では難民に対する反発も強まっており、難民が各地で就労を始めた際にどのような影響が出るのか？今後のドイツの状況、ひいてはヨーロッパにおける社会情勢を考える上で、重要なポイントになるかもしれません。
