シリア難民危機を考えるブログ

シリア難民に関する情報を集約していきます。難民問題と切り離せないシリアや中東情勢についても検証します。

ヨーロッパへ海路で渡った難民が84万人を突破〜11月20日現在

2015年になって、海路でヨーロッパへ渡った難民が10月2日50万人、10月19日60万人、11月5日75万人とお伝えしましたが、UNHCRによると11月20日現在、その数が84万人を超えています。1ヶ月でおよそ25万人も増加したことになります。

今回は子供の割合が増加したことが大きな特徴です。前回20%から22%まで上昇。これはどのようなことを意味するのか分析が必要です。また、国籍別では10位にマリが入ってきました。武装グループによるテロ事件が相次いでおり、今後の動向に注目したいと思います。

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[DATA] UNHCR

11月20日現在

海を渡って到着した人数:846,119人(11月5日 752,072人)
死者/行方不明者:3,485人(同3,440人)

人口割合

男性:62%(同65%)
女性:16%(同14%)
子供:22%(同20%)

国別構成

シリア:52%(同52%)
アフガニスタン:19%(同19%)
イラク:6%(同6%)
エリトリア:5%(同5%)
パキスタン:2%(同2%)
ナイジェリア:2%(同2%)
ソマリア:2%(同2%)
スーダン:1%(同1%)
ガンビア:1%(同1%)
マリ:1%(同圏外)

パリ同時テロ後にシリア空爆を強化したロシアの思惑

パリ同時テロ事件を「イスラム国」による戦争行為とし、フランスはシリアへの報復爆撃を開始しました。フランスも参加するアメリカ主導の「有志連合」による対「イスラム国」への空爆は、2014年8月以降、すでに8000回を超えました(11月12日現在)。パリでのテロ事件以降は、その動きがさらに加速しています。

ロシアは、エジプトでの旅客機事故の原因を「イスラム国」によるテロと断定。「自衛権の発動」という大義の下、連日シリアへの空爆を強めています。そして、同じくテロと戦うフランスを「同盟国」と呼び、「シリアでの空爆作戦において、ロシアとフランス間で軍や情報機関の調整を緊密に進めることも確認」しました(読売新聞11/19)。


シリアのアサド政権の今後を巡る米ロの対立

メディアの報道を見る限り、アメリカ・ロシア・ヨーロッパは、対テロ作戦で一丸となっているように見えます。

しかし、その内実は複雑です。

特にアメリカとロシアは、シリアの将来像を巡るビジョンが根本的に対立。 シリア紛争が始まってから一向に改善する見通しがたっていません。

その根本にあるのが、シリアのバシャール・アサド大統領の処遇に関する立場の違いです。

アメリカはアサド政権の即時退陣を要求して「穏健」な反体制派による政権樹立を目指しています。

一方、

ロシアは、ロシアやイランと関係の深いアサド政権の存続を主張しています。

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10月にはシリアのアサド大統領とモスクワで電撃会談。アサド大統領にとって内戦勃発後初めての外遊だった。

2011年にシリア紛争が始まって以来、両国の溝が埋まる気配はありません。

そして、状況をさらに複雑にしたのが「イスラム国」の誕生です。イラクからのアメリカ軍の撤退や、シリア内戦による無政府化によってうまれた権力の空白地帯で力をつけたスンニ派のイスラム過激派組織です。

当初アメリカは「イスラム国」をマイナーな存在と見ていました。しかし、2014年半ば以降、「イスラム国」は、イラク・シリアの主要都市を制圧。いくつもの油田を支配下に置いて資金力をつけているとも言われています。

「イスラム国」はアサド政権と対立している一方で、アメリカが支援する「穏健な」反アサド政権・反体制派とも対立。

つまりアメリカは、穏健派と対立する「イスラム国」とアサド政権の両方と対決する立場に立たされています。

一方ロシアは、アサド政権を支援しています。アサド大統領に反旗を翻す「イスラム国」と「穏健派」と対峙しているわけです。

ロシアは9月下旬以降、シリアへの空爆を行っていますが、攻撃の対象にはアメリカが支援する「穏健派」も含まれていると言われています。「米紙ニューヨーク・タイムス(電子版)によると、[パリ同時テロ以降も]ロシア軍は反体制派への攻撃も継続している」(読売新聞11/19)という情報もあります。

www.globalrefugeecrisis.com

アメリカ側もこうした事態に常に不快感を示しており、ロシアがアサド政権を支援し続ける限り、協力が拡大することはないだろうとしています。

こうした立場の違いがありながらも、ロシア側は、「イスラム国」が共通の敵という共通点を突破口にしようとする思惑があるようです。


ロシアの思惑〜国際社会への「復帰」と中東におけるプレゼンス確保

ロシアは、2014年のクリミア併合以来、孤立を深め、国際社会の表舞台から遠ざかっていました。

対テロを名目に、欧米諸国と協調路線をとりながら影響力を強化したいという思惑があります。

「テロ被害者のフランスと歩調を合わせることで、シリア情勢を巡る対露批判を封じ込めたいのがロシアの本音だ。経済制裁の見直しにも期待を寄せる」(読売11/19)

「イスラム国」の自爆攻撃によるテロの被害者という立場を打ち出すことで、シリア情勢で影響力を保持しながら国際社会に復帰したいというのがプーチン政権の狙いとされています。

実は、2014年夏以降、エネルギー価格の下落の影響で経済的にも苦境に立たされており、現状の打開に向けて突破口を開きたいという思いがうかがえます。

そもそも、シリアには地中海に面したタルトゥースという街に、ロシアの海軍基地が存在しています。

中東での影響力を保持するのに加えて、地中海に面した軍事的な重要拠点を手放せないというロシア側の事情もあるわけです 。

次のような分析もあります。

ロシアはシリアに重要な海軍基地を保持しいる。タルトゥースのアラウィー派が支配する地域にあり、プーチンはこの基地をどんな犠牲を払ったとしても維持したいと考えている。 シリアの他の地域が崩壊してイスラム国が大部分を支配することになったとしても、アサドがアラウィー派の中心地で権力をとどめておくことができれば、プーチンとしては満足だ。

www.aljazeera.com

「アサドを支援することが大一優先で、テロとの戦いは二の次」が本音というのが上の記事の著者の意見です。

現在、シリア内戦後の政権移行を検討する国際会議の場にアサド政権側を招待することで調整がなされています。

従来、反アサドの立場を強く打ち出していたフランスも、国内からの批判をかわすために対「イスラム国」に専念せざる得ない状況になりつつあります。西欧諸国も、ロシアが「イスラム国」打倒に本腰を入れるなら、民主的な選挙が行われるまで暫定的にアサド政権を容認する方向に態度を軟化することも考えられます。

「パリのテロを転機にロシアの思惑に近い方向に国際世論が傾きつつある。米欧ロや中東の関係国の外相は14日の会議でアサド政権と反体制派の停戦協議を開始することで合意した。テロの脅威が広がる中で対ISを優先し、アサド政権存続の是非を巡る議論をとりあえず棚上げする流れだ。」(日経11/20)

しかし、シリア内戦後の政権構想についてはロシア側からも明確なビジョンが語られておらず、今後も紆余曲折があることが予想されます。

お互いに何を考えているか、手探り・疑心暗鬼になりながら「協力」という体裁を整えつつ空爆が続けられていくのでしょうか。

フランスの対「イスラム国」空爆の経緯まとめ(2014年〜)

アメリカ主導の有志連合に参加して以降のフランス軍による空爆の経緯をまとめました。2014年8月にアメリカが「イスラム国」をターゲットにした空爆をイラクで開始して以降、イラク・シリア両国内で8000回以上の空爆が行われてきました。

フランス軍は当初、イラクでの空爆のみに参加。その後、2015年9月にシリア国内での攻撃に加わりました。2003年のイラク戦争の際には、アメリカによる宣戦布告に対し強く反論をしたフランスですが、2015年2月にはペルシャ湾に原子力空母シャルル・ド・ゴールを派遣するなど積極的な活動が目立っています。

タイムラインは以下のサイトを参考にしました。

Timeline: France's fight against ISIS - Region - World - Ahram Online

2014年8月8日

アメリカがイラクで空爆を開始


 

2014年9月6日

有志連合発足

参加国=米国、英国、フランス、ドイツ、カナダ、オーストラリア、トルコ、イタリア、ポーランド、デンマーク www.nikkei.com

 


 

2014年9月18日

オランド大統領 ・イラクから「イスラム国」への空爆支援の要請を受けて空爆参加を表明 ・地上部隊は派遣せず、イラク内のみ介入する

 


 

2014年9月19日

イラク国内で対「イスラム国」初の空爆を実施

「フランス大統領府は19日、仏軍がイラクでイスラム過激派「イスラム国」に対する初の空爆を実施したと発表した。」 http://news.yahoo.co.jp/pickup/6131846

 


 

2014年10月24日

フランス軍を含む有志連合はキルクーク北部にある「イスラム国」の訓練拠点を空爆し破壊


 

2015年1月7日

シャルリーエブド襲撃事件 12人を殺害

「仏メディアによると犯人らは、入り口に居合わせた風刺漫画家の一人にドアを開けるよう要求して事務所に侵入。「シャルリー・エブドはここか」と受付で確認して銃を放った。その後、編集会議をしている3階に上がって乱射したという。AP通信によると、犯人らはまっすぐに発行人のシャルボニエ氏の方に向かい、殺害したという。」

仏紙襲撃、編集部内で乱射 発行人や警官、次々殺害 http://digital.asahi.com/articles/ASH177L33H17UHBI01Y.html


 

2015年2月5日

オランド大統領、「イスラム国」撃退は遅遅として進んでおらず、フランスはさらに強く働きかけると言明


 

2015年2月23日

原子力空母シャルル・ド・ゴールをペルシャ湾へ。イラクでの作戦へ合流のため

「バーレーンの北方沖約200キロ付近をイラク方面へ向けて航行中の空母シャルル・ド・ゴールからは同日朝、最初のラファール(Rafale)戦闘機が発艦した。」 フランス軍空母、対IS作戦合流でペルシャ湾へ http://www.afpbb.com/articles/-/3040514


 

2015年9月7日

シリア国内での空爆実施に向けた準備を開始

「フランスのオランド大統領は7日記者会見し、シリアを逃れて欧州で難民認定を求める人が急増している問題について、原因はISの存在だとし、仏軍が米軍主導の有志連合の一員としてISに対する空爆を準備していると表明した。 オランド氏は記者団からシリアへの軍事介入の可能性について問われ、「シリアのISに対し、空爆を可能にするため偵察飛行を始める」と応じた。ただ、陸上部隊の派遣については「非現実的」と否定した。」

この二日後、フランス軍はUAEの基地からラファール戦闘機が最初の偵察飛行を行う

英がIS戦闘員殺害 仏も空爆準備表明 シリア http://digital.asahi.com/article_search/detail.html


 

2015年9月27日

フランス、シリア領内で初の空爆を実施。

・米国主導の有志連合と連携した攻撃 ・6機が襲撃死、シリア東部のイスラム国の訓練拠点を爆撃・破壊と発表 ・「仏大統領府は「ISによるテロの脅威に強い決意で立ち向かう。我が国の安全が脅かされるなら、いつでも応じる」とした。

仏、シリアでIS空爆 http://digital.asahi.com/article_search/detail.html


 

2015年10月9日

フランス軍のラファール戦闘機がシリアのイスラム国を標的とした第二波の攻撃を行ったと発表。イスラム国の重要拠点ラッカの軍事キャンプを爆撃。

 


 

2015年11月8日

フランス軍、デリゾールにあるイスラム国の石油関連施設を爆撃

 


 

2015年11月13日

パリ同時多発テロ事件発生

 


 

2015年11月16日

同時多発テロを受けて「イスラム国」が首都と自称するシリア・ラッカを報復攻撃

オルブライト元国務長官「イスラム国は私たちに難民を敵だと思わせたい」

第二次クリントン政権で、アメリカ発の女性国務長官を務めたオルブライト氏が、今回のパリ同時多発テロ事件を受けてタイム誌にコメントを発表。

time.com

その中で、自身の移民体験に触れながら、アメリカがシリア難民を受け入れるべきであること、またシリア難民を敵とみなす考えは「イスラム国」の術中にはまることを意味すると表明しています。

私たちの敵にはある計画があります。彼らは世界をイスラム教徒と非イスラム教徒に、イスラムの擁護者と敵対者に分断したいのです。シリア難民を敵に仕立てあげることで、私たちは彼らの策略に引っかかってしまっているのです。そうではなく、私たちが取りうる現実的な選択肢は、無実な人々を殺すことを厭わない人たちと、それを悪とする人たちを分けるということです。すべての人々の命を大切にするということを示すことで、私たちの立場を世界に示すことができるのです。

イスラム国が描く「イスラム非イスラム」という二項対立ではなく、「人を平気で殺害できる人々人の命を最大限に尊重する人々」という図式で捉える必要性を説いています。

UNHCRのグテーレス氏、テロと難民を結びつける議論を危険視

元ポルトガルの首相でもあるアントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官は17日、テロ攻撃の責任を難民に押しつけるのは「完全にばかげたこと」と非難。パリで発生した事件と難民を結びつける考え方を批判しました。

国連難民高等弁務官とは、難民の支援を行う国連機関「国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)」のトップの役職です。

中東から海路でギリシアにやってきた難民は、セルビアで難民登録を行ういわば最初の重要拠点になっています。グテーレス氏は、プレセボという街にある登録センターを訪問し、次のように発言しています。

「難民が流出しているからテロが発生しているのではない。むしろ、テロ、専制、戦争が難民を発生させているのだ。」「ダーイッシュ(ISの別称)は、ヨーロッパの人々を難民に対峙させようとしているだけでなく、ヨーロッパのコミュニティに暮らす人どうし、国内のコミュニティどうし、さらにはEUの国同士を対峙させようとしている。」 UNHCR - Europe Emergency

そしてパリのテロ事件の犯人が現場にパスポートを残したのは、難民に焦点を当て、ヨーロッパが国境を閉鎖させようとするISの戦略だと説明しました。

つまり、国境を閉鎖し、難民のヨーロッパ流入を防ぐ方向に向かうのは、まさにISの思う壺だというわけです。

グテーレス氏の発言と合わせて、国連難民高等弁務官事務所は「難民をスケープゴートにするべきではない」とする見解を発表しています。

テロの実行犯が欧州に殺到する難民らに紛れ込んでいたとの疑惑が浮上したことから、一部の国々が難民流入を阻止する動きを強めていることに懸念を表明。「欧州に来つつある難民の圧倒的多数は、紛争による生命の危険などから逃れるために避難している」と主張した上で、「難民を、最悪の悲劇の第二の被害者にしてはならない」と求めた。(朝日新聞デジタル)

digital.asahi.com

アメリカ50州のうち27州の知事がシリア難民の受け入れ中断を提言

11月13日に発生したフランス・パリでの同時多発テロ事件を受けて、有志連合を率いるオバマ大統領のお膝元アメリカが大きく揺れています。

全米50州のうち27州で知事が難民受け入れに懸念を表明。連邦政府に対してシリア難民の受け入れを中断するよう求める事態に発展しました。(この27州のうち知事の属する政党の内訳は、共和党26州、民主党1州と大きく共和党に偏っています。)

ホワイトハウス政府高官らは火曜日、34州の知事と90分に及ぶ電話会議を実施。知事らの疑問に対する回答を行い、難民受け入れ計画への懸念を払拭しようと努めました。シリア難民がアメリカに入国するのを防ぐべきだと強く迫った知事もいましたが、ホワイトハウスは厳格な審査によりセキュリティリスクに対応するということで納得してもらいたいとの立場。

White House Affirms Syrian Refugee Plan Despite Paris Attacks (New York Times)

www.theguardian.com

しかし、若手の下院議長ポール・ライアン氏(共和党)も記者会見で難民計画の停止を求める法案提出を検討していると記者会見で語りました。

ライアン氏は記者会見で「気の毒に思うことより、いまは安全を優先すべき時だ」と強調。「テロリストが難民に紛れて侵入できないよう確認するため、難民(受け入れ)計画を停止するのが、賢明で責任ある行動だ」と述べ、下院に計画停止を求める法案の提出を検討していることを明らかにした。

digital.asahi.com

そして、難民受け入れは次期大統領戦でも焦点となりつつあり、共和党補選で支持を獲得している不動産王のドナルド・トランプ氏は先月、自分が大統領になったらシリア難民を帰国させると主張しました

同氏は米国が20万人規模の移民を受け入れる可能性があると述べ、「今ここで明言するが、もしも私が勝利したらその20万人は帰国することになる──このことは本人たちが知っておく必要があるし世界にも伝えておく」と表明した。 「ISIS(イスラム過激派組織「イスラム国」の別称)かもしれない20万人を受け入れることはできない。彼ら(難民)が何者なのかわれわれには全くわからない。言っておくが、彼らは、オバマ大統領の弱さ故に(米国に)入り込んでくる可能性がある」とトランプ氏は語り、仮に自分が大統領に選出されれば、移民を本国に送還すると約束した。

www.afpbb.com

ブッシュ前大統領の弟、ジェフ・ブッシュ氏も現状のままでのシリア難民の受け入れに消極的になっており、今後、アメリカ国内の議論がどう発展していくか予断を許さない状況となってきました。

共和党議員による難民への懸念は上院にも広がっており、テッド・クルーズ上院議員が受け入れをキリスト教徒に限るべきだと言明。それに対して、オバマ大統領が強硬に非難する展開に発展しています。

www.cnn.co.jp

現在のところ、連邦政府は難民受け入れは予定通りに実施する構えを見せています。データベースを元に、最大限に厳しい事前チェックを行うとして、受け入れを容認してもらうという姿勢です。しかし、このデータベースに関してシリア国内の情報がどれだけ正確なものかについて疑問も持たれており、こうした事態を受けてオバマ政権がどう対応していくかが重要なポイントになってきます。

フランス軍が「イスラム国」の首都、シリア・ラッカで大規模な空爆を開始

フランス軍は、「イスラム国」が首都と自称するシリアの都市ラッカで大規模な空爆を開始したと発表しました。

フランス国防省によると、この空爆は9月にシリア領内で空爆を開始してから最大のもの

攻撃の拠点はISの軍事訓練拠点や軍事施設としていますが、空爆の規模や現地の状況についての情報は不明です。

フランスのオランド大統領は、パリ同時多発テロ事件をイスラム国による「戦争行為」と断言。これをきっかけに、これまで実施してきた空爆の強化など、軍事介入の本格化が懸念されます。

テロ事件を受けてISが犯行声明を発表しましたが、現在のところISがテロ事件に関与した明確な証拠は示されていません。

当局によれば、パリで発生したテロ攻撃に関与した犯人は、シリアのイスラム国のメンバーと事前にコンタクトをとっており、過激派が単に敵意を煽っただけでなく、攻撃実行に加担しているとの見方を示しています。そして、ベルギーと国家をまたいだ犯罪ネットワークの存在が示唆されています。

しかし、いずれにしても、現段階では各国メディアはフランス政府や治安当局が発表した断片的な情報を元に、事件の全体像を「推測」している段階だということは意識しておかなければいけません。

今回のテロ事件に関して、フランス当局は、犯行の周到さや計画性を指摘して、組織された集団による犯行の可能性=ISの犯行という見方を押し出しています。

しかし、実際この組織がどれだけ系統だっているのかについては疑問の声もあることは事実。警戒レベルを上げていたにも関わらず未曾有の犯罪を防げなかったことへの批判をかわしつつ、「戦争」という国威発揚を狙うのは政治家が用いる古典的な(そして短絡的な)手法の一つです。

「対テロ」を目的とした軍事攻撃は、そもそもそういった集団を生み出した国際構造を不問に付し、自らを一方的に正当化する閉じた世界観の現れという事例を過去にいくつも見てきました。

また、今後の展開はシリアの難民問題にも大きな影響をあたえることは確実で、収束に向かう可能性がまた一歩遠のいたようにも思えます。