シリア難民危機を考えるブログ

シリア難民に関する情報を集約していきます。難民問題と切り離せないシリアや中東情勢についても検証します。

各国首脳が会するG20がトルコで開幕。参加国の思惑が交錯する中、果たして成果は出せるのか?

今回のG20で何が話し合われるのか?

11月13日金曜日の夜に発生したフランス・パリでの同時多発テロ事件を受けて、15日からトルコでG20サミットが開幕しました。

G20は、参加国の合計で世界の人口の2/3、GDPの85%を占めており、いわゆる世界のリッチ国家の集まりと揶揄されることもありますが(G20 in Turkey: What to expect from the Belek, Turkey summit)。。。

通常G20では、経済、環境問題、その他のグローバルな課題が話し合われます。今回は直前に発生したパリ同時多発テロを受けて、テロ対策や難民問題が主要な議題になっています。

参加者は?

今回のサミットにはアメリカ・オバマ大統領、ロシア・プーチン大統領、ドイツ・メルケル首相、イギリス・キャメロン首相、日本・安倍首相、そしてホスト国トルコのエルドアン大統領といった各国首脳が出席しています。

フランスのオランド大統領は、テロ事件に専念するため急遽欠席を表明し、ファビウス外務大臣が代理出席する形となっています。

今回のG20では何が決まるのか?

テロの未然防止や難民発生の根本原因に対処する方針を盛り込んだ「テロとの闘いに関するG20声明」を発表する予定と報道されています。

日本も安倍首相がテロや難民問題の根本的な解決に向けて「中東地域の安定」や「各国のテロ対処能力の向上」を支援していく考えを表明している模様です。(G20サミット開幕へ 世界経済やテロ対策討議

しかし、そもそも「中東地域の安定」とは何なのか?「テロ対処能力」と言っても「テロ集団」とは誰を指すのか?そういった前提条件に対するコンセンサスを形成することはほぼ不可能と言っていいでしょう。

アサド大統領率いるシリア政権を支援するロシアと、体制移行後はアサド氏を完全排除したいアメリカなどとの利害対立。IS打倒を主眼とするアメリカ・フランスなどの西欧諸国と、IS攻撃を口実にクルド人勢力に空爆を行いたいトルコとの思惑の違い、、、などなど。

声明の内容にもよりますが、こうした状況の中で、声明が実行力を伴うかどうかは不透明な部分が大きいと思われます。

アメリカ主導の大規模軍事行動に発展するのか?

パリでのテロ事件の前日、イスラム国が首都とするシリアのラッカで無人機(ドローン)による空爆が行われました。

そのターゲットとなったのは「ジハーディー・ジョン」。外国人の人質殺害のビデオにしばしば登場していた人物でイギリス出身と言われています。アメリカが99.9%の確率で彼の殺害に成功したと主張したのは、パリの事件の前日でした。

ここ数ヶ月は空爆の成果も現れてきて、ISが追い詰められているという情報もあります。

しかし、パリのテロ事件でISが犯行声明を出した(ただし真偽の程は確証はない)ことで、ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、「各国指導者からは米国主導の軍事的対応の強化を求める声が上がっている」(http://jp.wsj.com/articles/SB11673646430017294066804581356461294762174)。

オバマ大統領はISと戦う有志連合の参加国から、特にシリア国内のISへの対応を強化するよう求められている。パリの事件が起きる前まで、米ホワイトハウスはそうした要請をかわすつもりだった。オバマ氏も13日放送のインタビューで、ISを封じ込めたとさえ発言していた。

さらに米政府関係者の以下のようなコメントもあります。

「これから数日ないし数週間はフランス人とともに活動し、シリアやイラク両国内でISILへの攻撃を強化することができると確信している。テロリストたちに安全な天国が存在しないことが明らかになるだろう。」 (U.S. to Work With France to Intensify Air Strikes in Syria, Iraq: Rhodes

また、 「テロ事件を受け、カーター米国防長官が14日にルドリアン仏国防相と今後の対応で電話協議しており、連携して行っているシリアでの対IS空爆作戦が強化される可能性もある。」 (米大統領:対IS政策への批判再燃の中、トルコのG20

さらに、オバマ大統領は、トルコのエルドアン大統領とも会談し、「イスラム国」に対し断固たる立場を取ることで合意しています。

「オバマ米大統領は15日、20カ国・地域(G20)首脳会合の開催地、トルコ南部アンタルヤで同国のエルドアン大統領と会談した。両首脳はパリ同時多発テロを非難し、テロを実行したとみられる過激派組織「イスラム国」解体への決意を再確認した。」 (「イスラム国」打倒へ連携 米トルコ首脳会談で確認

(ただし、トルコの対IS政策に対しては、アメリカの戦略と対立する部分も多いのですが、この辺についてはまた後日ご紹介します)

シリア紛争の勃発以来、シリアでの軍事介入に消極的だったオバマ政権が、これをきっかけに大規模な軍事行動を実施するのでしょうか?

しかし、アメリカ国内では来年に迫った大統領選で、人気の共和党候補がシリア情勢への介入に反対し、世論調査で支持を獲得してます。これまでのような世界の警察官としての立ち居振る舞いは、国内では必ずしも好意をもって受け入れられるという状況ではなくなってきているわけです。

対外関係に注目してみても、ロシア、トルコ、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、オーストラリア、カナダなどのG20の主要当事国はそれぞれ別々の利害関係を抱えており、フランスのテロ事件後にそれらがすべて解消されて、各国が一つの方向に進むということはまずありえないでしょう。

今後、反アサド政権に空爆を行っているロシアの出方にもよりますが、展開次第では、さらなる泥沼化が進むことも懸念されます。国際的に緊張感が走る中、絶妙なタイミングで開始されたG20。しかし、その行き先には暗雲が立ち込めているというのが率直な感想です。

ドイツ防衛大臣「難民問題とテロを結びつけるべきではない」

フランス・パリの同時多発テロの現場で、犯人の遺体のそばでシリアのパスポートを発見したとの発表以降、難民の流入抑止を正当化する言説や動向が見られるようになりました。

そんな中、ドイツ防衛大臣 ウルズラ・フォン・デア・ライエン氏は、テロリストが難民としてヨーロッパに入っているという考えに反論しました。

The Latest: German Official: Don't Link Terrorism, Refugees

防衛大臣は日曜日、ヨーロッパの難民危機とテロリズムの脅威を結びつけるのは間違っていると語りました。 「テロリズムは十分に組織化されており、困難な難民ルートを進んでいくリスクを冒す必要はありません。海をわたるのに命を危険に晒すことすらあるわけですから」と述べています。

テロ容疑者が難民として上陸した可能性が指摘され、難民受け入れを巡る今後の議論の展開はどうなる?

パリでの襲撃事件で死亡した犯人の遺体の近くで見つかったシリアパスポートの所有者がギリシア経由で難民として入国していたことが分かりました。他の容疑者も同様の方法でヨーロッパに流入したと見ています。

www.reuters.com

ギリシア政府は会見で、このパスポートの保有者が10月3日、レロス島で難民登録をしていたことを明らかにしていますが、この人物がその後、ギリシアを出国したかどうかについては不明とのこと。

digital.asahi.com

ギリシア当局によれば、この人物はシリア人の若い男性で、小さなボートでギリシアに上陸した69人の難民のうちの一人。ギリシア側で指紋を採取されていました。

このパスポートの保有者とパリ連続テロ事件の犯人が同一人物かについては詳細な調査が必要としています。

しかし、テロ事件後、ヨーロッパのポピュリスト政党が中東やアフリカからの難民・移民の受け入れを停止するよう要求。また、ポーランドは安全性が保証されるまではEUにより割り当てられた移民を受け入れられないとしています。

今回の事件が、ヨーロッパでの難民の受け入れに対する議論に大きな影響を与える可能性も指摘されており、状況は予断を許さなくなってきました。

パリ連続テロ事件から一夜明けて

パリ連続テロ事件から一夜明けたパリでは、公共施設が閉館。テロが発生した場所には多くの人たちが訪れて献花を行っています。一方、通常どおり商店は営業し、日常を送っている姿も見られます。

ルーブル美術館は14日、セキュリティ上の事情で閉館

フランス同時多発テロ事件 ライブアップデートまとめ

フランスで金曜日に発生した同時多発テロ事件。日本ではテレビでは報道されていないですし、新聞でも速報が入ってこないため随時チェックできる英語のサイトをまとめてみました。特にFrance24は、Youtubeでライブ放送を提供中です。

France24

CNN edition.cnn.com

Guardian www.theguardian.com

朝日新聞 www.asahi.com

BCC http://www.bbc.com/news/live/world-europe-34815972www.bbc.com

New York Times www.nytimes.com

Mashable mashable.com

パリ 爆発・銃撃・立てこもりで多数の死傷者が発生

フランス・パリ北部のスタジアムで複数(3回という情報あり)の爆発があり、数十人が死亡しました。死傷者の数は錯綜していますが、CNNによると少なくとも60人が死亡との報道(追記2015.11.14 22:50:その後、死者数は130人弱と発表されました)。その他、パリ各地で爆発・銃撃が繰り返されており、同時多発事件に発展している模様です。

スタジアムではフランスとドイツの代表によるサッカー親善試合が行われており、フランスのオランド大統領も観戦していました。

その後大統領は観戦を中止し内務省に向かい、(犯人の逃走を防ぐため)国境を封鎖し、フランス全土に非常事態宣言を発令しました。パリでは前例のないテロ攻撃が発生しているとし、当局は住民に対し屋内退避を呼びかけています。(ガーディアン「Hollande said there were “unprecedented terror attacks under way in Paris” and authorities have warned residents to stay inside.」)

digital.asahi.com

バタクラン(劇場)で銃撃・100人以上が人質として立てこもっている

その他、各地で銃撃や爆発が繰り返して発生。1月にシャルリーエブド事件があった場所からもほど近いということもあり、事件の推移を注視したいところです。

【追記 2015.11.14 09:20】 多数が人質に取られているバタクランに治安部隊が急襲作戦を実施。作戦は終了。治安当局者によれば、犯人が投じた爆弾により「大虐殺」が行われており、死者の数はさらに増加するとの見通しを示しました。

【国連WFP】難民キャンプのシリア人の子どもに食事を寄付できるアプリ「ShareTheMeal」をリリース

国連の世界食糧計画(WFP)は10日、ヨルダン難民キャンプに滞在するシリアの子どもたちに食事代を寄付できるスマホアプリ『ShareTheMeal』(シェア・ザ・ミール)をリリースしました。

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アプリはAndroid版・iOS版が無料で公開されており、そこを経由して50セント(約60円)から寄付できる仕組みです。支払い方法はクレジットカードとPaypalアカウントから選べます。

60円は1日に必要な栄養を提供するのに十分な金額とのこと。WFPは、このアプリを通じてシリア難民の子どもたち2万人が1年分の学校給食をまかなえる金額を集めたいとしています。

利用者は、寄付したお金がどこでどのように使われたかなど、支援の進捗をアプリ上で確認することが可能です。

支払う金額は柔軟に選択ができ、1日分60円、1週間分420円、1ヶ月分1,800円、3ヶ月分5,400円、6ヶ月分10,800円、1年分21,900円から選ぶことができます。以下の画面で金額をタップすれば支払い画面に進んでいきます。

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ShareTheMealについて、WFPのエグゼクティブディレクター、エルサリン・カズン氏は次のように語っています。「食事を分け合う(シェアする)というシンプルな行為によって、世界中の人々はつながっています。」「デジタルな方法で食事を分け合うこの取り組みは、『飢餓ゼロ世代』が飢餓を終わらせるための具体的な方法なのです。」

(参考記事)World Food Programme pins hopes on app to nourish 20,000 Syrian children(ガーディアン紙)

ShareTheMealは、今年6月、ドイツ、オーストリア、スイスで試験運用を行い、レソトの生徒たちたち170万人に食事を提供してきた実績があります。

WFPは慢性的な資金不足に悩まされており、難民に十分な食事を提供できない事態に陥っています。前述のカズン氏は、食糧援助が滞ることで、若者が過激派の勧誘に乗ってしまうリスクを警告しています。

難民キャンプで食料を確保できず、シリアに帰国する道を選ぶ人たちもでてきています。そうした若者がイスラム過激主義集団の格好の餌食になりかねないとしています。

ヨーロッパへの難民流出の原因の一つに、シリアの隣国難民キャンプの環境の劣悪さを指摘する声も上がっており、いま世界はそこに暮らす人々の生活の質を向上させていくことにも意識が向かいつつあります。

密航業者に高いお金を払って凍えるエーゲ海を渡ることも、戦禍が耐えない母国シリアに帰国することも、仕事も食料もないヨルダン・レバノンの難民キャンプに留まることも、いずれも大きなリスク。そんな八方塞がりの状況に難民たちがおかれているというのが実態ではないでしょうか。