シリア難民危機を考えるブログ

シリア難民に関する情報を集約していきます。難民問題と切り離せないシリアや中東情勢についても検証します。

トランプ氏のイスラム教徒入国禁止発言が大きな波紋を呼ぶ

2016年のアメリカ大統領選の共和党指名候補争いで支持率首位のドナルド・トランプ氏。彼が行ったイスラム教徒のアメリカへの入国禁止発言が国内で多くの批判を受けています。

トランプ氏は12月7日、サウスカロライナ州での集会で「当局が事態を把握するまでの当面の間、イスラム教徒の米国への入国を全面的かつ完全に禁止する」と発言しました。2001年9月11日に発生した世界貿易センタービルの事件を引き合いに出し、同様のテロがまた発生するかもしれないと議論を正当化(読売新聞12/9)

トランプ氏はこれまでもアメリカ国内のイスラム教徒全員をデータベスに登録して管理させるとか、モスク(イスラム教礼拝所)を監視するといった発言を繰り返していました。イスラム教徒の入国禁止案に関して、ロイターが電話で取材を行ったところ、移民や難民だけでなく、学生や観光客を含む全員だとの回答を得たとのことです。

(参考)トランプ氏、今度はイスラム教徒の米入国禁止を提案

 

集会での発言は、オバマ大統領がテレビ演説を行った翌日になされたものです。オバマ大統領は、ロサンゼルス近郊での銃撃事件がテロであった可能性を受けて、銃規制などにも言及。「イスラム国」への徹底抗戦を主張しながらも、目新しい施策はなく、具体性に乏しいものでした。

(参考)
米乱射 | オバマ大統領、テロ非難「脅威、新たな段階に」 - 毎日新聞
対テロ対策で失点続きのオバマ大統領 なお戦略手探り 政権への不信感高まる(1/2ページ) - 産経ニュース

 

7日は各メディアが大統領の演説を大きく取り上げているところに、トランプ氏の発言となったわけです。

 

これに対して、アメリカの国内外で批判が相次いでいます。
ホワイトハウスと国防総省の報道官は、アメリカがイスラム教に否定的な印象を与えれば「イスラム国」の思うつぼだと指摘。反イスラム感情の高まりがイスラム教徒に疎外感を抱かせ、インターネットなどを通じた過激派の勧誘工作を利する可能性を懸念しています(読売12/10)。

さらに、ピーター・クック氏は、こうした発言がアメリカの安全保障に背くとしています。

しかし国防総省のピーター・クック報道官は、このような発言は「ISILの主張を後押しする」と批判した。「ISIL」は米政府関係者が「IS」を指して使う名称。
報道官はトランプ氏の名前を挙げずに、ムスリムに国境を閉ざすようなことは過激派思想と戦う米国の努力を損なうものだとして、「ISILの主張を後押しし、イスラムの信仰に敵対するものとしてアメリカを位置づけるようなことはすべて、この国の価値観に背くだけでなく、この国の安全保障に背くものだ」と批判した。

www.bbc.com

 

さらに、これには同じ共和党の政治家からも批判が。

ポール・ライアン下院議長(共和党)

共和党幹部は強い口調でトランプ氏の発言を非難し、ポール・ライアン下院議長は「昨日提案されたようなことは、この党を象徴するものではない。何より、この国を象徴するものでもない」と述べた。

【米大統領選2016】トランプ氏発言は米安全保障を損なう=米国防総省 - BBCニュース

ジェフ・ブッシュ元フロリダ州知事

共和党大統領候補の指名争いですでに惨敗ムード濃厚なジェフ・ブッシュ氏ですが、メキシコ移民への寛容な態度をトランプ氏に突っ込まれた経験があります。Twitterで「トランプ氏は錯乱している」と批判。

 

海外でも、

 

キャメロン英首相の報道官

「首相はトランプ氏の発言に全く賛同できない。対立を招き、ためにならず、単純に間違っている」

 

ボリス・ジョンソン(保守党)ロンドン市長
「私がニューヨークの一部にいかない唯一の理由はトランプ氏に遭遇する現実的な危険からだ」

 

バルス仏首相
「我々の唯一の敵はイスラム過激派だ」と延べ、イスラム教徒と過激派を混同すべきでないと主張。

 

UNHCR報道官
米国がUNHCRの難民定住に基づく最大の難民受け入れ国だと述べ、トランプ氏の主張を「難民定住計画を危険にさらす」批判した

 

また、イギリスではトランプ氏のイギリス入国禁止を求める署名が30万人分集まったと話題になっています。

www3.nhk.or.jp

 

当然これはイギリスの法律と相容れないために実現は不可能だと思われますが、「同盟国」イギリス国民の支持が得られないとなれば、万が一、トランプ氏が共和党の大統領候補に指名された後、共和党が大統領選で苦戦することが予想されます。

 

メディアでもこれまでトランプ氏の話題をエンタメ欄に掲載していた米ネットメディアのハフィントン・ポストが、トランプ氏の影響力の拡大を受けて政治欄に「昇格」させると発表しました。

ドナルド・トランプ氏の発言、もはや面白がっているだけでは済まない

www.huffingtonpost.jp

 

読売新聞は一連の「トランプ現象」が「白人ナショナリズム」に支えられていると分析しています。(読売新聞12月9日)。エスニックマイノリティー移民に職を奪われる白人の低所得労働者層の不満を背景に、こうした人種差別的な発言が支持を得ているとも言われています

 

アメリカ国内での難民をめぐる政策や議論は、シリアからの難民の生活も大きく左右するだけに、こうした「トランプ現象」の背景にある要因を冷静に分析していく必要があるでしょう。