【書評】ルポ 過激派組織IS(Islamic State)―ジハーディストを追う
イラク・シリア、そしてヨーロッパでのISの実態を取材に基づいて分かりやすく丁寧にまとめた1冊です。
ISの実態や中東の現状というものは、難民問題の背景を理解する上で必ず押さえておかなければいけない問題といえるでしょう。
本書はそうした背景を構造的に理解するのに役立ちます。歴史や政治に詳しくない人にも分かりやすく書かれています。
『ルポ 過激派組織IS』は、NHKの別府正一郎氏と小山大祐氏による共著。ドバイ支局勤務だった別府氏が前半の「中東・アフリカレポート」を、そしてヨーロッパ総局の小山氏が後半「ヨーロッパレポート」を担当しています。
ISを中東・アフリカとヨーロッパという2つの地域から眺めることで、いま世界が抱える課題を全体的に描き出しています。
『ルポ 過激派組織IS』では、なぜISが中東や、ましてはヨーロッパでこれだけの広がりを見せているのか?ということが浮き彫りになってきます。有志連合による空爆が続き、一時的に勢力を弱めたとされるISが、再び攻勢にでた背景には何があるのかのヒントが多く示されているように感じました。
2014年6月にイラクの都市モルスが陥落した際の意外な街の現状、長年イスラエルとアメリカへの対立意識を共有していたスンニ派の一部の過激派がシーア派に対する敵意を前面に打ち出した事情、アメリカの中東政策の失敗が今日のISの広がりに「貢献」することになった経緯、そしてヨーロッパでイスラム教に無縁だった若者がシリアへと向かっていく理由。
ヨーロッパでは現在、この100年ほどで最大の難民危機を迎えています。 この問題をめぐって、EU内部の対立が表面化し、内部崩壊するのではないかという憶測までなされている始末。 それほどこの問題の根は深いといえるでしょう。
しかし、そもそも難民がなぜ生まれるのか?難民として流入する人たちはどのような人なのか?
その辺の議論はまだまだ少なく、実態が解明されていないのが実情だと思います。 いまはマスメディアも学者たちも、目の前で起きている現象を伝え、フォローすることで手一杯な印象も受けます。
当面はヨーロッパ各国での難民の受け入れをするか否か、そしてするとしたら何人を受け入れるのかという技術論に終止することでしょう。
しかし、「本当の解決」があるとすれば、それは難民が生まれる背景を構造的に明らかにしていくことから生まれていくのだと思います。
その意味でこの本は「ルポ」という手法で、一般の人たちへの取材を通して、そういった課題に近づける良書だと思いました。