シリア難民危機を考えるブログ

シリア難民に関する情報を集約していきます。難民問題と切り離せないシリアや中東情勢についても検証します。

はてなブログに移行しました。

この度「シリア難民を考えるブログ」をはてなブログに移行することにしました。

これまではWordPressでブログを構築していましたが、特に何か大きな開発をするわけでもないですし、プラグインのアップグレードやセキュリティの問題に対応するのに時間を割くよりも、執筆に多くの時間をかけたいと考えています。

随時移行作業を進めておりますので、まだ不完全な部分がありますが、今後はこちらにブックマークを登録していただければ幸いです。

イギリスに到着後に行方不明になる難民の子どもたちが急増

過去5年間で難民の子ども900人が行方不明になっており、2015年はその割合が急増。1月から9月までで少なくとも340名が行方不明となり、そのうち3分の1の行方が今も分かっていないというショッキングな報告がなされています。

www.theguardian.com

イギリス政府や地方行政もその実態を十分に把握しているとは言えず、行方不明の子どもの数はもっと多いのではないかとも言われています。

データによれば、特にベトナム、アルバニア、アフガニスタンの子どもたちが行方不明になる確率が高く、地方行政による保護もままならないまま、人身売買業者の手にわたる危険性についても言及しています。

地方行政でも、子どもたちを適切に保護するには、人出が足りていないのが実情で、多くの子どもたちが危機に晒されていると見られています。

人身売買業者に渡った子どもたちは、現代の奴隷とも言われる無償労働を強いられている可能性もあります。

ガーディアン紙の別のレポートでは、ベトナム人の子どもたちを危険にさらしている組織ぐるみの犯罪についても報告しています。

www.theguardian.com

現在、シリア難民が多く押し寄せているヨーロッパでも、親と離れ離れになってり脆弱な立場に置かれている子どもの存在が指摘されており、そうした子どもたちが犯罪組織のターゲットになりうるという警告もなさています。

大量に押し寄せる難民による行政の混乱の影で、こうした犯罪が進行していくことが懸念されます。

過酷な状況で足止めを食らっていたモロッコ人男性が抗議の自殺

マケドニアとギリシアの国境での混乱がますます深刻化しています。(先日の記事はこちら

マケドニアへの入国が阻まれ続けていたモロッコ人男性が12月3日、電車の高圧線に触れて死亡。状況に悲観したうえでの自殺と見られていて、その後、現地では警官隊と難民の間で暴動が発生しました。

AFPはその状況を以下のように伝えています。

「僕らは全員ここで死ぬ、よそへは行かない」――ギリシャとマケドニアとの国境で3日、モロッコから来た移民のアブドゥルさんは、鉄道の高圧電線を握りしめて感電死した友人男性の遺体を指さして言った。ギリシャ警察は、国境で何日も足止めが続いている現状に絶望しての自殺とみている。 モロッコ人移民たちは、この男性の遺体を担いで「アッラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫びながら検問に押し寄せ、ギリシャ警察が催涙ガスを噴射して押し戻す一幕もあった。

www.afpbb.com

11月にマケドニアがシリア・アフガニスタン・イラク以外の国からきた難民をすべて「経済難民」とみなし、イラン人、モロッコ人、パキスタン人などの多くがマケドニアへの拒否される事態に発展しています。

寒い中、国境沿いで多くの難民が滞留している状況について、ギリシャ人ジャーナリスト アントス・レパナス氏は「この状況はかつて見たこともないほど深刻です。このままさらに悪化し続けるでしょう。イドメニでは戦争が起こっているのです。ヨーロッパもギリシャも恥じるべきです。人の命をおもちゃのように扱っています」と語っています。

www.vice.com

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は12月4日声明を出し、この状況を非難しています。国籍による難民の選別は国連のいかなる協定にも違反し、国籍ではなく保護を必要としているかを重視するように訴えています。

www.unhcr.org

アメリカがイラクに特殊部隊を展開

米軍特殊部隊200名をイラクに投入

カーター国務長官は12月1日、アメリカ下院軍事委員会で対「イスラム国」でイラクに特殊部隊を派遣すると説明しました。

主な任務は「イスラム国」幹部の拘束、人質の解放、情報収集など、地上での作戦を補完する役割を担うとされています。派遣の規模は支援要因を含めて約200人ほどになる見通しです。現地ではイラク軍やクルド自治政府の治安部隊ペシュメルガを支援し、シリアでの単独行動も視野に入れています。

しかし、特殊部隊の派遣に関してオバマ大統領は、2003年のイラク戦争の時のような本格的な戦闘部隊ではないとしています。

www.reuters.com

もともとオバマ大統領は、大統領戦の公約でイラクやアフガニスタンからの撤退を主張していたこともあって地上戦闘要員の投入には消極的です。

一方で「イスラム国」に対して何も行っていないという誹りは避けたいのが本音です。そのため今後は、このような地上部隊の小出し投入を繰り返すのではないかという予測もなされています(日経12/3)。

アメリカは現在、イラク軍の軍事訓練や助言をする軍事顧問団3500人を派遣中です。新規部隊はそこを強化するものと思われます。対「イスラム国」でアメリカは、空爆と特殊部隊の強化と、有志連合の拡大・強化という2つの軸を中心に進んでいくことになります。

 

地上部隊投入も手詰まり感が…

しかし、対「イスラム国」戦略においては、アメリカもこの数ヶ月間は手詰まり感がでています。

シリアでは反体制派に軍事訓練を行って、「イスラム国」と戦闘する現地要因を育てるプランが練られていました。しかし、蓋を開けてみると、彼らの多くが「イスラム国」に捕捉されて、最終的には数十人程度しか残らず、その作戦を放棄せざるを得ない事態となりました。

イラクでも、米軍の直接投入を避けてイラク軍を対「イスラム国」の主体としたいと考えているものの、イラク軍は「イスラム国」を掃討するだけの実力を備えていません。他方、アメリカが積極的に支援してきたシリアの反体制派も、9月のロシア空爆開始後、壊滅的な被害を受け戦力として計算ができない。

さらに、米軍のイラク展開に関しては、イラク国内で反発もあります。イラクのシーア派の民兵組織は、米軍特殊部隊のイラク内配置に拒否反応を示すことが想定されます(読売新聞12/3)。実際、イラク戦争後、2004年〜2008年ごろ、彼らの多くがイラク駐留米軍に武装闘争を行った経緯もあります。

昨年9月の有志連合による空爆開始以来、空爆回数は8000回を超えています。しかし、一向に打開策が見えないどころか、事態はますます混迷を深めているように見えます。特殊部隊投入の効果は、深まるシリア問題の中では焼け石に水といったところではないでしょうか。

マケドニアの国境管理厳格化はギリシアに新たな混乱をもたらすか?

各国の難民による通過点になっているバルカン諸国で多くの難民が足止めを余儀なくされています。入国の許可が降りずに、ギリシアに滞留する難民が増加しています。

 国境付近では多くの難民が寒い中、テントを張って留め置かれている。

パリ同時テロ事件の容疑者が難民を装ってバルカン諸国を通過していたことが報じられると、それまでも難民受け入れに消極だったバルカン諸国は取り締まりを一段と強化しました。

ギリシアの隣国マケドニアは、シリア・アフガニスタン・イラクなど、紛争が激しい地域以外の人々の入国を許可しない方針を発表しました。

その結果、ソマリア、イラン、パキスタンからやってきた移民・難民がマケドニアとの国境に近いギリシアのイドメニに滞留するようになり、11月26日、マケドニアの国境警備隊との間で最初の衝突が発生しています。

さらに、28日には、入国を阻まれたことに電車の上に乗って抗議したモロッコ人男性が感電し重傷を追ったことをきっかけに、難民・移民250人が警官隊に投石。マケドニア側も催涙弾、スタンガンなどで応戦し、警官18人が負傷(多くが軽傷)する事態に発展しました。


国連は国籍による選別を「新たな人道問題」と批判

バルカン諸国が難民・移民を出身国で選別していることに対して、UNHCRなどは「新たな人道問題」として懸念を表明しています。

そもそも、国連の協定では難民を国籍によって差別・選別することを容認していません。人道的な観点から保護を要するかどうかは国籍ではなく、個別のケースを調査して判断するのが原則としています。シリア・アフガニスタン・イラク以外の国から来た人々が経済移民であるとは一概には言えないだろうというわけです。

www.theguardian.com

子供二人とイランから逃れてきたと説明する40代の女性は「イランに戻るという選択肢はありません。シリア人、アフガニスタン人、イラク人が紛争地域から逃れてきたという事情は理解しています。しかし、私たちも大きな政治問題を抱えているのです。私たちの国に自由はありません」と語っています。


難民の滞留はギリシアに新たな負担になるとの懸念も

マケドニア軍は11月28日、ギリシアとの国境に全長5キロに及ぶフェンスを設置しました。政府報道官によれば、不法入国を防ぎ、正式なチェックポイントに難民を通過させるためとのこと。

マケドニア軍は国境付近に全長5キロに及ぶフェンスを設置

しかし、こうした国境管理の強化によって、数千人におよぶ難民・移民がギリシア側で足止めされていると言われています。

ガーディアン紙のインタビューに答えていたイラン人女性は、マケドニア入国を諦めてアテネに引き返すと語っていますが、アテネに戻ってくる難民・移民も増えている模様です。

その結果、ギリシアでは難民増加に懸念が高まっています。

www.theguardian.com

国際人権連盟副事務総長のディミトリス・クリストポロス氏は、ヨーロッパ諸国が国境を相次いで封鎖したことで、「ギリシアが難民の通過国から、難民を抱える国になるという最悪のシナリオが始まっている」と語っています。負債問題を抱えるギリシアには、滞留する多くの人々に対処するだけのインフラが存在しないと指摘しています。

ガーディアン紙は、ギリシア内で足止めをされる難民が増えると、密航業者に頼ろうとする人が増え、さらにはシリアの偽装パスポートが氾濫する可能性もあるとしています。取り締まりを強化し、難民・移民に閉塞感が生まれれば、そこに付け入る業者が横行します。そのことが事態を複雑にし、状況を悪化させるリスクがあるわけです。

国際政治ではいま、トルコによるロシア軍機の墜落事件に注目が集まっていますが、難民が現在おかれている状況にも目を向けておく必要があるでしょう。

11月30日シリア情勢・難民問題 はてなブックマーク注目記事まとめ

トルコ軍によるロシア空軍機の撃墜事件をきっかけとした一連の動きで、ロシアがトルコに対する経済制裁を示唆。その一方で、トルコは難民政策への協力を約束してヨーロッパからの支援金を獲得するとともに、EU加盟に向けた動きも。

シリア問題をめぐるヨーロッパ、トルコ、ロシアの間の駆け引きで、ますます混迷を深めつつある10月30日に注目を集めた記事まとめ。

ロシア、トルコに経済制裁発令 国家安全上の理由で

jp.reuters.com

鼻を折られたプーチン大統領との接し方に要注意 混迷を深めるシリア情勢... jbpress.ismedia.jp

EU、トルコに約3900億円支援 難民対策の見返りに加盟交渉加速へ www.afpbb.com

EUとトルコが首脳会談、国境管理強化など難民対策で合意 jp.reuters.com

トルコ、仏軍機に領空飛行許可 現地メディア報道 www.nikkei.com

ドイツ、シリアの対IS戦支援で1200人派兵へ www.afpbb.com

トルコで著名クルド人弁護士射殺、民族間の緊張高まる www.afpbb.com

シリア・アサド政権打倒で第3次世界大戦の危険性も 米下院議員が米政府... jbpress.ismedia.jp

IS、リビアのシルト支配強化 シリア・イラク以外で初 - WSJ jp.wsj.com

日本でも難民問題をめぐって、市民レベルでのゴタゴタも発生・・・

難民受け入れ反対デモに「差別反対」のカウンター 休日の繁華街は騒然 www.huffingtonpost.jp

EUとトルコの首脳会議、難民抑止のために3900億円を拠出

ヨーロッパにシリア難民が大量に押し寄せている問題。 EUとトルコの間で首脳会談が行われて、EUからトルコに3900億円もの支援金が支払われることで合意しました。

トルコはシリアの隣国で、シリア人200万人が難民として滞在しています。そのトルコから危険な海路を渡ってくる難民が多いことから、トルコでの難民の生活状況を改善することで、危険なヨーロッパ行きを踏みとどまらせたいと考えています。

合意では、トルコ政府はEUが設立した基金を活用して難民の受け入れ施設などを提供。トルコは国境管理などを強化するほか、難民の生活水準を上げることによって、リスクの高い欧州への渡航を思いとどまらせる。

www.tokyo-np.co.jp

そして、EUはトルコに対して、EU加盟交渉の開始と、トルコ人のEUへのビザ免除について具体化することを約束しています。独裁色を強めるエルドアン大統領に対してヨーロッパでは警戒する声が強まっていましたが、一旦それを棚上げした形です。難民の流入を抑制するには、トルコの協力が不可欠という判断です。

しかし、ガーディアン紙によると、ドイツのメルケル首相は今回の公式会談終了後、8カ国による臨時の首脳会談を開き、トルコから数十万人もの難民を受け入れる「有志連合」を結成することに提示しました。ユンケル欧州委員会委員長は、これは強制ではなくあくまで自主的なものとし、トルコから合法的に難民を受け入れる施策だと説明ました。

www.theguardian.com

トルコで難民を押しとどめようとするEUの政策と、一方で難民の「合法的な」受け入れを進めようとするドイツを中心とした動き。一見、矛盾するような動きに対して、ユンケル氏はそもそもトルコだけが問題解決の鍵を握るわけではなく、外部の境界を守るもっとも重要な鍵は我々の責務だとしています。

しかし、これは9月に合意したEU内での16万人難民の割り当て計画を、事実上反故にすることも意味しています。この計画は、当初から中東欧諸国の批判が相次ぎ、ポーランドでは移民受け入れに反対する政党が選挙で勝利するなど、EUとして受け入れをスムーズに進められない状況が続いています。

難民問題はEU統合の今後を占う試金石だとも言われていますが、各国の思惑や行動によっては、内部の矛盾が一気に露呈するリスクも抱えています。