シリア難民危機を考えるブログ

シリア難民に関する情報を集約していきます。難民問題と切り離せないシリアや中東情勢についても検証します。

シリア紛争による死者47万人と推計。国連の発表と約2倍の開き

シリア政策研究センター(SCPR)という民間の団体が、2011年に勃発したシリア紛争の影響をまとめたれ報告書を公表しました。それによると、死者数は47万人に達し、国連統計の2倍に及ぶとしています。そして、国内では人口の45%が難民化したことで人材育成基盤が崩壊したと述べています。

SCPRによると、死者47万人のうち40万人が暴力・武力による直接的な被害者。残りの7万人は医療、薬品、食糧、清潔な飲料水、公衆衛生、住まいなどが不足したことに起因する間接的な被害者としています。

国連の統計では死者数は25万人と公表されていますが、戦況の悪化により戦況の悪化により1年半前に統計取得を断念。その開きは約2倍ほどになっています。

統計の著者Rabie Nasser氏は「間接的な死者は今後さらに増加していくだろう。NGOや国連はこのことに気がついていない」と説明しており、戦況が悪化するアレッポなどの生活基盤の崩壊が、新たな死者を招くことが懸念されれます。

負傷者は190万人で、死者と合わせると人口の11.5%が死傷した計算になります。その影響で平均寿命は2010年の70歳から、2015年は55.4歳に。わずか5年間で15歳近くも大幅に低下しています。

 

そして報告書では経済的な被害についても報告されていて、経済損失は2550億ドル(約29兆円)に及ぶと推定。世界銀行の統計で遡れる最も新しいデータ(2007年)では、シリアのGDPは404.1億ドルとされていることから、GDPの8倍強に及ぶことになります。

その他のポイントを以下にまとめます。

・物価は2015年に53%増加。ただし、紛争地などでは物価の上昇率はさらに高く、そうした地域では市場を独占している戦争商人が利ざやを稼いでいる。
・雇用環境も悪化しており、安全上の理由から働く女性の数が減少している。約1380万人が生活の糧を失った。
・シリア全土で、安全性が失われ、あらゆる資源が紛争に使われ、戦争に関連した雇用が増加し、権威を押し付けられている。
・人口が21%減少しトルコやヨーロッパに難民として大量に向かっている。45%が家を失った。636万人が国内で避難をし、400万人が国外へ逃れている。
・健康、教育、収入水準が急激に悪化している。貧困層が2015年だけで85%増加した。

詳細なデータは以下のURLからPDFで入手可能です。

http://scpr-syria.org/publications/policy-reports/confronting-fragmentation/

こうした現状に対する国際社会の関心は必ずしも高くありません。上記の英ガーディアン紙の記事では以下のように語られています。

危機の様相に、世界の国々は遅遅として気づいていない。「シリア人は5年間も被害にあっているにもかかわらず、先進国の社会に直接的な影響が及ばないかぎり人権や尊厳への国際的な関心が集まらない。」

紛争はこの国の社会的・経済的な基盤を崩壊し続けている。外国の介入が深まって、シリア人の分裂を深めている。人材開発、人々の権利や尊厳は、徹底的に破壊されてきた。

この報告書は「分断に立ち向かうConfronting Fragmentation」というタイトルを付けられており、シリア国内の混迷極める状況を物語っています。

【速報】シリア和平協議 敵対行為停止を合意も実効性については疑問視も

ドイツ・ミュンヘンで開催されたシリア和平協議で、シリア紛争当事者間での停戦が合意されました。シリア政府と敵対勢力、および関係諸国で1週間以内に停戦にこぎつけるという内容です。シリア全土で人道支援を迅速に行うことも決定しました。

会議での決定内容は以下のとおり。

1週間以内にシリアでの戦闘を停止する。数日以内に国連のタスクフォースを立ち上げ、戦闘停止の方法の検討に入る。また、攻撃を受けている地域に対して、近日中に人道支援を開始。金曜日にジュネーブで開かれる会議で作業グループが方法を検討する。なお、攻撃停止の対象から「イスラム国」とヌスラ戦線は外されるとし、ロシアは空爆を続行する。

合意の軸は「戦闘行為の停止」「人道支援」の2つ。

しかし、その実効性は早くも疑問視されています。

ロシアの空爆は継続

シリア和平会議の中断の原因ともなったロシアの空爆は、「戦闘行為の停止」後も継続します。ロシアは「イスラム国」とヌスラ戦線は停戦の対象にはならないとし、両者への空爆は停止する必要がないという立場です。

一応、ロシア空爆の大義名分は「イスラム国」などの国際的なテロ集団の撲滅にあります。

しかし、空爆はアサド政権を支援する側面が強く、穏健なイスラム勢力へも容赦ない空爆が行われていると報告されています。一般の市民も犠牲になっています。

そのため、ロシアが空爆停止を明言しなければ、シリアの反政府勢力が停戦合意に従わないことも考えられます。そうなると、米ロ主導で実施される停戦枠組みが機能しない=停戦が実行に移されない可能性も出てきます。

そもそも、誰がこの枠組に参加するのか?

会議の決定事項を実行に移すため、米ロ主導で作業グループとタスクフォースを立ち上げることになっています。

「イスラム国」とヌスラ戦線はこの枠組から排除されることが決まっていますが、ほかにどの勢力を含めるかについて米ロ間でも認識に違いがあると言われています。さらに、ロシア・シリア・イランは、トルコやサウジが支援する組織を加えることに反対しています。

さらに、詳細については、シリア国内の様々な勢力の合意を取り付けることが必要になりますが、その行方も不透明。

タスクフォースや作業グループは、開始前から前途多難なわけです。

「敵対行為の停止」は紙上の約束

ケリー国務長官は「敵対行為の停止」が紙の上での合意にすぎないことを認めています。つまり、現段階ではなんら拘束力を持つものではありません。ラブロフロシア外相も言うように、シリア紛争のすべての当事者がこの合意を信任するかどうかがポイントになってきます。

日本のメディアでは「停戦」という表現が使われていますが、今回の合意の内容はあくまで「敵対行為の停止cessation of hostilities」「停戦ceasefire」の前段階という位置づけです。

この2つの違いについてMichael Safi氏がガーディアンで言及しています。

今回の会議で提言された「敵対行為の停止」とは、暴力の一時的な中断を意味し、戦場での互いの立場を凍結するというもの。和平プロセスの最初のステップではあるが、拘束力はない。

他方、「停戦」とは長期的な和平プロセスや交渉による解決の一部として宣言されるもので、国連監視団の展開、非武装地帯の設定、前線での武装勢力展開の禁止などが含まれる。

今回の「敵対行為の停止」は、シリア和平にとっては必要なプロセスだけれども、拘束力がないところがポイント。実行に移せるかどうかは、関係当事者が米ロ主導の枠組みを信任するかどうかに依存するというわけです。

こうしている間にも、シリア政府側の攻撃により、アレッポ周辺の人々の生活環境は劇的に悪化しています。

 

人道支援が喫緊の課題になっていますが、支援機関が彼らのもとにアクセスできない状態が続いていて、改善の兆しは見えません。この状況を一刻も早く改善するための枠組みが最も求められています。

シリア難民人道支援に1兆2800億円を拠出する国家首脳の思惑とは?

ジュネーブで反体制派によるシリア和平協議が中断を余儀なくされたその日。ロンドンでは約70の国と、国際機関、NGOなどによるシリア支援のための会合が開かれました。

会議では各国が難民人道支援のため110億ドル(1兆2800億円)の拠出を表明。難民政策をめぐってヨーロッパ各政府が批判にさらされているなか、今回の会議の決定や発言を見ると、難民流入に歯止めをかけたいヨーロッパ首脳の思惑がうかがえます。

Prime Minister Ahmet Davutoglu of Turkey and Sheikh Sabah Al-Khalid Al-Sabah, First Deputy Prime Minister of Kuwaitwww.flickr.com

110億ドルの支援

イギリスのキャメロン首相は、人道支援目的で1日で表明された金額としては過去最大と語り、その成果を高らかに誇っています。本年中にまずは60億ドルを、そして2017年から2020年にかけて50億ドルを支援する内容になっています。(しかし、それでも2016年に必要とされる援助額85億ドルには遠く及ばないとのことですが)

日本経済新聞によれば、支援の方向性としては3つ。

  • 雇用・職業訓練
  • 教育
  • インフラ

資金は主に(1)400万人以上の難民への職業訓練など自立支援(2)16年度末までに約140万人の難民の子供への教育機会の提供(3)治安対策や医療体制などシリア国内のインフラ整備――にあてる。

シリア支援へ1兆円 日米欧など70カ国、共同拠出合意めざす :日本経済新聞

ですが、このブログでは「雇用」「教育」「食糧支援」という3つのポイントから会議の意味を探ってみましょう。

雇用・職業訓練

難民がヨーロッパに流入する原因として、トルコやヨルダンなど周辺国に逃れたシリア人の生活が急速に悪化しているということがあります。戦禍を逃れて周辺国にきたけれど生活が苦しい。

周辺国に避難する人の多くは、実は難民キャンプではなく、家を借りて生活をしているという実態があります。生活費を稼ぐために長時間労働を強いられ、子どもたちも児童労働に従事させられていることが報告されています。

トルコなどでは原則としてシリア人の就労は禁止されているため、労働条件が悪くても文句を言えずに状況を受け入れるしかありません。一日中働いているのに、住む場所にも食べ物にも事欠くような生活です。

しかし、ヨーロッパで難民として認められれば、語学の習得や就労支援を受けられる。それが、ヨーロッパへと向かう誘因の一つとなっているわけです。

今回のシリア支援会議では、雇用条件の改善に向けた支援が表明されました。巨額の資金提供の見返りに、周辺国に雇用創出を働きかけています。シリア人を就労させることで、難民を中東に留めたいとする政治的な狙いがあるとも言われています。

しかし、ヨルダンやレバノンでは、失業状態にある国民からの反発も予想されますから、期待通りに雇用が生まれるかは不透明です。 

子供の教育支援

難民をめぐっては、子どもの生活環境の悪化が言われるようになりました。特にここ数か月、ヨーロッパに流入する女性や子どもの割合が増加傾向にあります。トルコから極寒のエーゲ海を渡るという大きなリスクを背負って。

そうした難民の子どもたちの就学機会が奪われています

これは別の機会でも紹介しましたので、詳細は割愛します。

こちらの記事はデータが少し古いです。しかし、当時より数字が改善している兆候はありません。良くて現状維持、普通に考えて悪化しているのではないかと思われます。

多くの子供たちが教育を受けていない。

シリアが将来的に復興を遂げた時、教育を受けていない世代が生まれることが危惧されます。

また現在、その子どもたちが過激主義者の勧誘のターゲットとされることも懸念されていて、国際社会の支援を要するもっとも重要な問題とも考えられています。

キャメロン首相はシリア人の教育支援は、単に人道的な問題ではなく、安全保障上の問題でもあると公言しています。EUからの脱退論まで出ているイギリスの情勢を考えると、安全保障面の成果を公言しなければ資金援助を正当化できない状況にあるのかもしれません。

食糧支援

難民キャンプでの生活が悪化するきっかけとなったのが、昨年夏以降の「食糧危機」です。

食糧危機といっても、自然災害や異常気象が原因ではないんですね。国際社会による資金提供が滞り、WFPが食糧支援を大幅に削減したことが理由でした。つまり「人災」であったわけです。

だったら食糧支援を行って、難民に中東にとどまってもらおうと考えたのがドイツ。この会議でドイツは12億ユーロの支援を約束しました。それだけのお金があれば、食糧支援に必要な金額の半分をまかなえるとしています。

しかし、難民の食糧支援だけが原因なのか?と疑問の声も上がっています。

支持率が急落しているメルケル首相は会議で、2015年末の食糧不足が難民を増加させたと説明した。しかし、ギリシャの関係筋によれば、ギリシャを通過してドイツに向かう女性と子どもの難民が現在急増している。家族の呼び寄せを阻止しようとするドイツの新たな規制を恐れているためだという。

Governments pledge $10bn for Syria in largest one-day humanitarian drive ever | World news | The Guardian

つまり、ドイツの難民政策の先行きが不透明だから難民が押し寄せるのだと言ってるわけです。

食糧問題も難民抑制には欠かせないけど、それだけじゃないよね、ということです。

ギリシャとマケドニア国境には、多くの難民が滞留し国際問題に発展しています。現場の担当者からすれば、見当違いも甚だしいということでしょうか。

メルケル首相は難民政策をめぐって支持率が急落。自らの政策の一貫性のなさが混乱を招いているわけですが、そうした批判を食糧支援によって交わそうとしているようにも映ります。 

パトリック・キングスレー氏による4つの提案

さて、会議でのこうした取り組みに対して、パトリック・キングスレーという人が、それだけじゃダメでしょ、ということを言っています。

Increasing aid for Syrian refugees is not the only option. Here are four more | World news | The Guardian

記事の中で難民問題の解決に向けた4つの追加提案を行っています。興味深かったので、ざっくり要約をしてみました。

1.受け入れ枠を増やす

どうせ何をしても難民はやってくるのだから、定住する機会をあげると公言してしまったほうが良い。そうすることで、少なくとも難民流入をコントロールすることはできる。それによって、密航業者を頼って危険を犯してヨーロッパに渡ろうとする意欲をそがれる。

カナダ政府が2万5000人のシリア人受け入れを表明したとき、ヨルダンでは国内に留まるとした人が増えたという。安全な方法があれば、家族をわざわざ危険にさらすようなことはしないだろう。

2.ヨーロッパ共通の難民政策の施行

国により難民制度や政策が違うので、特定の国にしわ寄せがいってる現実がある。ドイツの負担を軽減するためには、避難民のための共通のプロセスを打ち立てる必要がある。そうすることで、難民が受ける扱い、利益、定住の機会を平等にすることができる。

3. アフガニスタンやイラクからの難民のニーズも考慮する

ヨーロッパにやってくる半分がシリア難民だとしても、そのもう半分はアフガニスタンやイラクからの難民だ。彼らの要求を考慮することも欠かせない。

資金援助や労働支援プログラムは、シリア人だけでなく、アフガニスタン人やイラク人も対象とする必要がある。 

4. 湾岸諸国や米国にも一定の役割を果たしてもらうよう促す

サウジアラビアやUAEはシリア内戦に深く関わっているにもかかわらず、難民の受け入れには消極的だ。資金的な協力だけでなく、周辺のアラブ諸国の負担を減らすために多くのシリア人を受け入れるべきだ。

パリやサンバーナーディーノでの事件の後、米国の政治家は難民に対して厳しい姿勢をとっている。実際、米国が難民受け入れを表明する可能性は低い。しかし、3億人の人口を抱える大国が貢献をする姿勢を見せれば、定住プログラムの成功にとって決定的な影響を与えるだろう。

 

それにしても、難民問題の根本的な解決とは何でしょうか?そもそも根本解決などということがありうるのでしょうか?

みなさんはどのように考えますか?

ヨーロッパに渡る女性や子どもの難民の数が男性を上回る

UNICEFの統計によると、ヨーロッパに安全を求めてやってくる女性と子供の数が、難民危機勃発以降はじめて男性の数を上回りました。ギリシアとマケドニアの国境にやってくる難民は1月、およそ6割が女性または子どもだったということです。

子どもの割合が増えていることはこのブログでもお伝えしてきました。

その原因として、寒い冬の間に男性の難民が減少したことを一つに挙げられていますが、その分、女性や子どもが海を渡るリスクが高まっていることを意味しています。

特にここ最近は、保護者を伴わずにヨーロッパにやってくる子どもの増加が問題になっています。彼らは人身売買業者の格好のターゲットであり、犯罪に巻き込まれたり児童労働を強要される危険があります。

実際に欧州警察組織は、過去二年で1万人を超える身寄りのない子どもの難民がヨーロッパで行方不明になっていると公表しています。

次回以降のブログ記事でも紹介しますが、シリア難民が逃げ込むトルコでは法律に保護されずに長時間の労働を強いられる子どもたちの存在が注目を集めています。そうした彼らが難民化するリスクは日に日に高まっています。

トルコ沖で難民を乗せたボート転覆で30人以上が死亡、生存者の中にはミャンマーからの難民も

幼い子供の死。繰り返される悲劇

 

2016年に入ってから1ヶ月間で5万人を超える難民が海路でヨーロッパに渡ったと報じられる中、トルコ沖で難民を乗せたボートが転覆し少なくとも37人が死亡する事故が発生しました。

避難民はエーゲ海のレスボス島を目指しており、死亡した人の中には幼い子どもたちも含まれている模様です。トルコ・チャナッカレ県アイワジックの沿岸に横たわる小さな子どもの遺体の写真がロイターなどで報じられています。AFPの記者は「イラン・クルディ(Aylan Kurdi)君を思い起こさせる」としています。

エーゲ海にあるレスボス島は、トルコからほど近いギリシアの島で、多くのシリア難民がヨーロッパに入る際の主要な経路になっています。ヨーロッパ行きを希望する人々から法外な料金を徴収し、危険なボートに乗船させる密航業者が存在しており、今回の事件でもトルコ人の密航業者がトルコ当局に逮捕されました。

UNHCRによれば、こうした危険な密航で2015年は約3700人が死亡。2016年に入ってからも1月だけで死者の数が300人以上にのぼっています

密航業者の取り締まり強化が叫ばれる一方で、海路で入国する難民の数が減らない現実。

昨年退任した前UNHCR事務局長アントニオ・グレーレス氏は、取り締まりを強化しても問題は解決せず、むしろ合法的に入国させる方法を検討すべきと提言していますが、各国の思惑の違いもあり実際には難しのが実情です。

気温が高まる春にかけて難民の数が増えることも予想されており、国際的にどのような取り組みを行うかが焦点になっていきます。

生存者の中にミャンマー(ビルマ)からの難民も

今回の事故報道では、生存者の中にミャンマーからの難民の存在が確認されています

海路でイタリアやギリシアに渡る難民の90%は、シリア、アフガニスタン、イラクの人々で、その他の国々の出身者の割合はわずかでしかありません。その他も、パキスタン、レバノン、イランなどの南ア・中東、そしてエリトリアやナイジェリアなどアフリカからが多く、東南アジアからの難民は非常に少ないのが現状です。

国際移民機関(IMO)の統計によると、2015年にギリシアで登録をした人々の中で、東南アジアの国々はミャンマーとフィリピンのみ。しかし、ミャンマー(ビルマ)33人、フィリピン4人と、ミャンマーはその数が突出しています。

今回の情報だけでは、彼らが本国でどのような立場にあったのかは不明ですが、ミャンマー国内ではロヒンギャ難民の問題がクローズアップされています。ロヒンギャに関しては、ミャンマー国内で虐殺や迫害の事実が報じられています。仏教徒の多いミャンマーの中で、彼らはイスラム教を信仰しており、アウンサン・スーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の中でもロヒンギャに対する態度は一様ではありません。

ミャンマー政府はロヒンギャの存在自体を認めておらず、隣国バングラデシュからの不法移民という立場をとっています。

ロヒンギャの問題に関しては、アウンサン・スーチー氏も慎重な姿勢をとっています。ロンドン大学ペニー・グリーン教授は、スーチー氏がロヒンギャへの虐殺を黙認していると批判するなど、改善の兆しが見えない状況に苛立ちが募っています。

2015年には隣国へ避難するロヒンギャの人々が密航船で国境を超えていることも問題となっており、追い詰められたロヒンギャを「イスラム国」が勧誘の標的にしているという報告もなされています。

実はロヒンギャの人々は、迫害を逃れるため日本にも多く滞在しています。国際的に見て、住む地域を追われ難民化する人々の数はここ数年で急増しており、保護の対象とならない人々が厳しい状況に晒されている現実が私たちの直ぐ近くにも存在しています。

 

ヨーロッパへ海路で渡った難民 1年前に比べて約10倍〜1月30日現在

2016年に入ってからも海路でヨーロッパに渡る難民の数が減少する気配がありません。2015年1月の合計が5000人だったのに対して、2016年は1月30日現在、その数は54,518人に達しています。昨年比およそ10倍。これから暖かくなるにつれて、その数がさらに増えていくことも想定されています。

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(出典)UNHCR

2016年に入ってからの特徴としては、アフガニスタンからの難民が増えたことと、子どもの割合の増加です。内戦が続き報道も多くなされているシリアからの難民の割合はここ数ヶ月で減少していますが、その一方でアフガニスタン難民の割合が増えています。

アフガニスタンからの難民に対しては、国情が安定しているとしてドイツでの受け入れを制限する動きがあります。しかし、東大作・東大准教授によれば2015年はアフガニスタン民間人の死者の数が2001年以降で最多となり、政府の支配地域が減少傾向にあると推測されています。

大国の利害が複雑に絡む中で、シリア内戦への注目が高まっていますが、その影でアフガニスタンの状況が深刻化していることを物語っています。アフガニスタン難民の割合は当面は増加していくものと思われます。

 

2016年1月30日現在

海を渡って到着した人数:54,518人
死者/行方不明者:236人

人口割合
男性:57%
女性:17%
子供:27%

国別構成
シリア:48%
アフガニスタン:21%
イラク:9%
エリトリア:4%
パキスタン:3%
ナイジェリア:2%
ソマリア:2%
スーダン:1%
ガンビア:1%
セネガル:1%

ヨーロッパへ海路で渡った難民が100万人を突破〜12月31日現在

12月30日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の統計によると、海を渡ってヨーロッパに渡った難民の数が2015年で100万人を超えたとのこと。

2014年が216,054人でしたから、およそ5倍(ちなみに、2013年は59,421人)。 特にそのうち半分の50万人は、このブログで不定期で定点観測を始めた10月初旬からの、わずか3ヶ月での流入です。これは、1日平均で5,500人を超えています。

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12月以降、海路での流入のペースは衰えています。ヨーロッパの寒い冬の時期を敬遠していること、あるいは最近のヨーロッパでの難民受け入れの消極姿勢が影響しているということもありますが、ヨルダンやレバノンで暮らすシリア人避難民の生活状況の悪化も伝えられており、春以降、再び増加することも懸念されます。

 

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